「これだから売ってるんです」と言えるものを作って、「買わないと損だよ」っていう空気感を創っていくしかない
映画音楽的な手法にバンド・サウンドを融合し、ライブを中心に活動をするマルチ・インストゥルメンタルバンドsgt.。CDの特殊ブックレットとして短編小説を封入するなど、作品発表でも新しい試みに挑戦し続けている彼らが、約3年ぶりにリリースしたセカンド・フル・アルバム『BIRTHDAY』が話題を呼んでいる。そんなsgt.のベーシストであり、リーダーでもある、明石興司氏の目指すところとは? また注目のインディー・レーベル、ペンギンマーケットの設立者としての観点からも、いまの音楽業界についてどのように考えているのか話を聞いた。
——3055読者でまだsgt.を知らない人もいると思うので、ひとことで言うとどんなバンドですか?
毎回テーマを決めて制作に臨んでいるんですけど、自然な風景や情景、頭に浮かんだりイメージを音にするのがインストの強みなので、想像力を膨らませるようなことをしたいと思っていますね。
——セカンド・フル・アルバムの反響はいかがですか?
まだ僕は誰かに感想を聞いたことはないですけど、ずっと一緒にやっているメンバーの成井(Violin)と大野(Drum)が、技術的な面と表現的な面で、いままでの作品を全部乗り越えられたと言ってくれていますね。今回はファースト・フル・アルバムを超えようという気持ちになっていたんですが、それはちゃんと違う形で提示できたんじゃないかなと僕は思ってます。
——なぜセカンド・アルバムなのにバースデイというタイトルにしたのですか?
今回はコンセプト・アルバムなんですけど、そのコンセプトの物語のテーマとして、恋とか愛とか人間の生地感のような大事な部分を表現したかったんです。それから僕たち自身が次に向かって、新しいものを1から作ったので、「心機一転して一発目」という意味もあります。それからもうひとつ、成井さんにお子様も生まれるということも意識しました(笑)。
——具体的にそのコンセプトとは?
たとえば少女が出てくるとか、自分が一から考えた物語がコンセプトになってます。で、物語のこの辺ではこういう感じの曲を作るとか、この辺はこういう物語だから、こういうニュアンスの音にしようとか構成を組み立てていって。今回のアルバムはライヴでできた曲をレコーディングしたのではなくて、やりたいことを作品にしたということです。
——1曲目が2曲目のイントロ調なのに、なぜあえて1曲目に分けたのですか?
あれは星が旅をする物語がコンセプトなんですけど、その星の少女が物語に入っていくっていう世界観を創りたかったんです。少女といっても人間じゃなくて星なんですけど、その物語を絵本で読んでもらうっていうかたちで1曲目を作ったんです。sgt.の世界に入る前にその絵本を読んで、絵本の世界から2曲目が始まるっていう……。「古ぼけた絵本」というタイトルは、その絵本を読んで、星の少女の物語が始まるっていうイメージなんです。1曲目はプロローグっぽく思われちゃうんですけど、実はあれがすごい大事なんですよね。
——インストに拘っているイメージがあったのですが、ヴォーカル入りの曲を制作したのには、なにか心境の変化があったのですか?
歌による表現ってすごく力があるじゃないですか? 「愛してる」って言ったらそれで伝わるし。でも、Aコード「ジャ~ン♪」で愛は伝わらない。「そこをインストでどう伝えられるか?」みたいなことを表現者としてやりたかったんです。直接的に歌で「赤い玉です」って投げて終わりではなくて、「赤だけど青になっちゃった」とか、「白になってしまう」とか、そういうことが実は大事なんじゃないかなと。その人の想像力とか価値観をもっと広げたり大きくしたいという思いがあったんです。だからインストが大切だった。でも、今回はコンセプトのなかにどうしても直接的に伝えたいことがあって、歌という選択肢がよぎったんですよ。今回は自分のこだわりは置いておいて、作品のコンセプトというのを一番に重要視しましたね。
——CDのセールスと配信とライブについて、sgt.のメンバーというよりもペンギンマーケットの設立から運営してきている明石さんとしてどのように考ていますか?
そのことは、自分に置き換えたりしてよく考えますね。まず自分がCDを買わなくなったなぁと。そこには価値がないのか、買いたい物がないのか。音だけではなく全部を含めて買いたいという作品は少なくなったのかな。それだけ世の中の作品のレベルが上がったというのもあるんですけど、昔の音楽に戻ってしまったりしますね。そういうふうに自分が思うってことは、みんなも思っているんじゃないかってなったんですよね。
——配信がどうとか、違法ダウンロードがどうっていうよりも、根本的に作品として魅力あるものが少なくなってると?
そうそう、すべてをひっくるめて、「ほしい!」というなにかがないと買っていただけないのかなと。時代にあった売り方とか、時代が求める作品がきっとあると思うんです。でも、そこのジレンマみたいなのはすごくありますね。たとえばアナログ限定でリリースして、sgt.を好きでアナログのプレイヤーを持っている人だけが買えばいいんじゃないかってたまに思うんですけど、でも、そんな考えは横柄な話で。自分が伝えたくて作って、多くの人に聴いてほしいのに、そういうことをするのはまた違うのかなと。だから、「できるだけみんなが求めるかたちで提供しつつ、表現者としてどこまで守れるか。なおかつ次の提供の手段を作れるか?」っていう、このふたつはいつも思うんですよ。そこを、「曲ができたからひとまず出しました」とか、「次のタイトル出さないとまずいから出す」とか、それがまた悪循環を生んでいるところもあるんじゃないかな。しかし、そうしないと回らないのはレーベル運営している僕もわかるので、それはそれで仕方がないんですけどね。でも、どこまでアーティストと売り手が、「これだから売ってるんです」とか、「これだから作ったんです」って言えるものを作って、「買ってください」ではなく「買わないと損だよ」っていう空気感を創っていくしかないんじゃないかな。そうするとみんなも観て、聴いて、納得したら買うじゃないですか。「あ、いいな」って思わせられる説得力があれば、最後はついてきてくれると思うんです。まぁそこにsgt.があるかどうかは解らないですけどね (笑) 。
——その取り組みのひとつとして、今回もブックレットを作ったのですか?
ほんとは最初、飛び出す絵本にCDが入って、物語が書いてあるようなブックレットを限定で作りたかったんですよ。今作には物語があるので、その物語を読みつつ、絵本を見つつ、僕たちの音楽を聴いてもらうっていう。DVDによる映像も考えたんですけど、手元に置いて聴いてもらえると、「あ、こういう世界ね!」って伝わる感じがしたんです。そのための表現はすごく考えましたね。いまそれをiPhoneアプリでリリースすることも考えてはいて、ですから本当にトータルですよね、ミュージシャンだけでなく、みんなに協力していただいての作品になりますけどね。
——ツアーに向けて、どんなツアーにしたいですか?
CDの再現っていうのも少なからずあって、目の前にいるお客さんに楽しんでもらうことが第一目的とは思っているんですけど、表現とか演出とかなにを求められているかっていうことは意識しちゃいますね。そのなかで僕個人としては、フロントマンの成井 幹子、大野 均、あのふたりがいかにライヴで表現しているかは見てほしいですね。メンバー同士の息遣いみたいなものを、お客さんに楽しんでもらいたいというか。あのふたりが美女と野獣として戦いつつ、ちゃんとsgt.を表現している。それもひとつの醍醐味だと思うんですけどね。「あ、大野さんいま興奮してるけど、成井さん怒ってるの?」とか、「成井さん没頭しすぎて独走してる!」とか、ライヴは汗かいてなんぼっていうのが僕らsgt.だし、普通に立って演奏してクールに終わったらダメ。思いをぶつけて、「こうだよ」って音で全身全霊伝えるので、ぜひ観てほしいですね。
——今後の野望とか、展望は?
海外の活動に力を入れたいなと。もちろん日本での活動も大事にしつつですけど、日本で生まれた歌のないバンドの音楽を、世界の方々がどう思うのか純粋に気になるんです。いろんな人に聴いてもらいたいっていう思いが広がって、もっと海外の人にも聴いてもらいたくなってきたんです。インドとか中国の田舎の方の人は、ライヴでの大野を観てどういうリアクションするのかなとか、ブラジルやアフリカの打楽器が好きな人たちは、成井のバイオリンを聴いてテンションが上がるのか、冷めるのか、どういう風に感じてくれるのか。そんなことが気になりますね。あとは、やりたいことはまだいっぱいあるので、次のコンセプトを作って、それを形にして、ちゃんと作品にしたいなぁ~と思ってますね。それをいまちょっとずつ考えてますね。
——成井さんもご出産されたらバイオリンの音色がガラッと変わりそうですしね。
いや、むしろ変わってもらわないと困りますよね(笑)。いままでと同じじゃなくて。だから妊娠前のレコーディング、妊娠中のツアー、出産後の来年のライヴを見てください(笑)。