どれだけ柔軟に変化しながら、リスナーにアピールできるかが重要

“The Beautiful Schizophonic”を名乗るポルトガルのアーティスト、ジョージ・マンタスとのセカンド・コラボレーション・アルバム『Night Blossom』が話題を呼んでいるYui Onodera。インターネットの利便性と音響建築の概念を活用して独自の世界観を生み出す彼に、さまざまな思いを語ってもらった。
——今作はジョージ・マンタスというアーティストとのコラボレーション作品第2弾ですが、そもそも彼とのコラボレーションはどのようにして実現したのですか?
「『cronica』というポルトガルの電子音響/サウンド・アート系レーベルからリリースされている彼のソロ作品『musicamorosa』を聴いて、僕の方から自作品へのゲスト参加をお願いしたのがきっかけです。電子音響でありながらノイジーになりすぎずに調性を持ったループや、器楽音のオーガニックな響きとマイクロスコピックな電子音で構成されているところにすごく共通する美意識を感じたんです。それで、なにか一緒におもしろいものを作れそうだなと思って。彼も以前から私の作品を気に入ってくれていたので、無理なくふたりでアルバムを制作しようという流れに至りました。結果としてその作品はファースト・コラボレーション・アルバムの1曲目に収録されています」
——今回、制作はどのようにして行ないましたか?
「私は日本、彼はポルトガルに拠点を置いて活動しており、直接会って作業をするということは難しいので、まずは互いに10秒~30秒位の比較的短いサウンド・ソースを送り合うことから始めて、それらを元に全体像を形作ってゆくというやり方で進めました。いつも海外のアーティストとのコラボレーションはそうやって進めています」
——距離も離れていて人種も違い、会ったこともない相手と共作することに違和感は感じませんでしたか?
「もともと私の作品の多くが海外レーベルからリリースされていることもあり、一度も顔を合わせることなく完結される仕事には違和感はありませんでした。私は英語があまり上手ではないので、最初から言葉でコミュニケーションするよりも、音を聴いてもらいながら互いにできることを探していく方が誤解が少なく、スムーズに進行するんです。非効率的かもしれませんが、互いの仕事を信頼する限り、余計な言葉を交わさないことで予定調和に陥らずにすむというメリットもあります。常に驚きと発見にワクワクしながら制作したいと思っているので、こういうジャズの即興演奏のセッションのようなやり方はすごく自分に合っていると思います」
——なるほど。
「リスナーとしてお互いの作品を聴いていたこともあって、それぞれが目指す方向性にブレがなかったというのもあると思います。それにインターネットが普及した現代では、人種や地域による違いを感じることのほうが少ないと思うんです。言葉の壁はありますが、余計な言葉を交わさないぶんより純度の高い音楽的コミュニケーションが成立することもあるのではないかと思って」
——そのアルバムですが、どんな作品にしたかったのですか?
「コラボレーションはソロではやらないことにチャレンジできるチャンスだと考えているので、お互いに新しい試みとなるように心がけています。内容的にはプロセスされた環境音や器楽音、電子音などの現代的な質感を活かしつつ、和声や旋律が感情に訴えかけるような作品にしようと思っていました。前作を含め『映画みたいな音楽だ』と言っていただくことが多いのですが、それは意図がうまく反映されているからだろうとうれしく思っています」
——複数の演奏者が参加していますが、彼らの人選はどのように行なったのですか?
「前作の流れを汲みながら新しい試みや音の響きを加えたいと考えていたので、信頼できる日本人アーティスト数名にラフ・ミックスを送って参加を要請しました。基準としては、それぞれが楽器を用いて新しい音楽を制作している方々にお願いしています」
——「dreaming in the proximity of Mars」は、ピアノが印象的です。
「これはジョージが送ってくれたトラックをベースに、グランド・ピアノの即興演奏をコンピュータで再構築しています。通して弾いているように聴こえるかもしれませんが、短いフレーズや単音ごとに解体して、微妙に定位を変えたりなど実は細かくエディットを施しています。続く“akathisia”は、ピアノ音のディケイ部分を取り出してドローン・サウンドにプロセスしたものをジョージに送り、電子音・ノイズを足してもらいました。ポコポコと聴こえる音は扉の開閉音などの具体音をコンピュータでプロセスしたものです。次の“nubian clouds over Saskia”は、ピアノのメランコリックで叙情的な旋律と電子音によるドローン・サウンドを混ざり合わせて独特の雰囲気を生み出しています」
——“washing in slow colours”では、小野寺さんがギターを弾いていますね。
「はい、私が弾いたギター・サウンドを素材に、ジョージがプロセスしたドローン・サウンドがベースになっています。ヴィブラフォンはベルリン在住のアーティストでel fogとして活動されている藤田正嘉さんに弾いてもらいました」
——“siamese bloom”は?
「これはジョージから女性の話声を素材として送ってほしいとの提案があり、アムステルダム在住のサックス/笙奏者の佐藤尚美さんに友だちと会話している音風景をフィールドレコーディングしてもらいました。サックスを吹いてくれたのは神谷泰史さんで、ほとんど編集せずにそのまま使用しています」
——“this crying age”は、ポエトリー・リーディングが効果的ですね。
「穏やかな調性を持ったループを少しずつ変化させることで、人生の様々な記憶を思い返すような切ない雰囲気を引き出しています。日本語でのポエトリーリーディングは、Mikoさんというアーティストにお願いしました。最後を飾るに相応しい曲になったと思います」
——今後はどう進んでいきたいですか?
「ここ数年はコラボレーションやリミックスなどの制作が多かったので、ソロ・アルバムの制作にじっくり取り組みたいと思っています。またサウンド・インスタレーションなどの空間も含めたプロデュースも継続していきたいですし、今後は映画音楽にも積極的に取り組みたいです。包括的な視点で作品制作やデザインを考え、他分野とのコラボレーションを通じて社会にどんな新しい体験を提供していけるか考えていければと思っています」
——音響建築のお仕事をしているそうですが、それはどんな仕事でしょう?
「ひとことで言うと、音を鳴らすための空間設計です。商業的なものからプライベートなものまでレコーディングスタジオやリハーサルスタジオ、音楽室など幅広く手がけています。地域によって建築法規の制限に違いがあったり、用途によって求められる空間音響の質が違うのですが、制限が逆に仕上がりに個性を持たせるのがおもしろいですね。そして、それは音楽にも言えることです。いま建築界では超線形設計プロセスというおもしろい考え方があるんです。「ジャンプしない」「枝分かれしない」「後戻りしない」という三つの大きな原則に基づいて、あらかじめゴールを想定せずに漸進的な改良を重ねていく設計方法なのですが、私はよく音楽制作においてもこれを実践し、意図的に自分に制限を設けています」
——音響建築がご自身の音楽に与える影響はありますか?
「アコースティック楽器が鳴らされたときの空間の響き、それからモニター環境などの電気音響的な部分の設計をしていくのでかなり耳がよくなります(笑)。ケーブル一本変えただけでも音は変化しますし、そのあたりの聴き分けができないといけません。そういった経験や知識は当然、自身の制作やインスタレーションのアイディア出しにも活きてきます。事実、2010年にリリースされたCelerというアーティストとのコラボレーション・アルバム『Generic City』は、都市論的なアプローチが連動したコンセプチュアルな作品となりました」
——音楽が売れない時代と言われていますが、どのような層にアプローチしていきたいですか?
「音楽の売り方や聴き方が変化しているだけで、聴く人が減っているわけではないと思います。iTunesをはじめとする音楽配信の隆盛によって特定のジャンルや時代に固執せずに幅広く音楽を聴かれる方が増えてきているのはすごく健全なことだと思うので、あとはアーティスト含め発信する側がどれだけ柔軟に変化しながらアピールできるのかが重要だと思います」